「冷たいのと温かいのがあります」
「じゃあ、冷たいほうで、」
「じゃあ、私は温かいほうで、」
些細な連れ違い。
それすらも大きく感じてしまうほど、
心の距離は離れてしまう。
わからないくらいの速度で、
ゆっくりと離れていく。
人の心は難しい。
「はやぶさ」が地球を飛び立ってから、
何年もかけて宇宙をさまよい続ける。
その旅路を想起させる。
真っ暗闇をただただ突き進む。
そうやって二人がそれぞれ進んでいたら、
どうやったって距離は離れてしまうだろう。
二人の距離を確認するためには、
どうしたって言葉が必要、
「居心地が良ければ言葉なんていらない」
そんなものは幻想に過ぎない。
一度は交わったはずの二人の気持ち、
言葉を交わすこともなく、
無為に時を刻んだら、
心の距離は離れる一方、
人は個体が違えば別の生き物、
どんなに分かり合えたつもりになったところで、
そういうものなのだ。
言葉の届かない距離まで離れてしまったら、
あとは奇跡を待つしかない。
真っ暗闇を突き進む二人が、
再び近づくという奇跡を、
「自分の道を進めばいい」
信じる道をただ真っ直ぐに、
進めばいい。
その先に交わるものがあるかどうかはわからないけれど、
辺りは真っ暗だから心にある羅針盤に従うしかない。
宇宙は広くて真っ暗だから、
ただまっすぐに進んでいれば、
自分の道を進んでいれば、
火照った体と同じように、
心も時間が冷ましてくれるはず、
「心がつながっている」なんて、
ただの勘違いだったんだよって、
きっと教えてくれるはず、
だから、
どんなに辛くたって、
後ろ髪を引かれたって、
自分の道を進むしかない。
ただただまっすぐに、
脇目も振らずに、
そうして生きている中で、
たまたま交わったものにだけ興味を向ければいい。
それがきっと「縁」ってもの、
自分がそう思えば「運命の人」
だけれどもどんなにそう思っていても、
心の距離が離れてしまったら「関係のない人」
人って都合のいいもの、
そうやって生きないとあまりにも辛いから、
だから思い込みで気持ちを整理しようとする。
人って、
健気な生き物、
辛さや苦しみから、
自分を守ってあげようと、
いつだって必死に生きている。
「はやぶさ」が地球に戻ってくるまでに、
誰とも交わらなかったとしても、
たとえ成果がなかったとしても、
その帰りを大勢が祝福してくれるだろう。
人の心を動かすのは真摯な姿勢と一途な気持ち、
交わらなくたっていい。
ただただ自分のやるべきことをやり続ける。
それが誰かの笑顔になる。
人生ってそういうものなのかな。
気になる彼女と連絡がついた。
だけれどもどこか儚げな様子、
このままどこかに消えてしまうんじゃないかなって、
そんな様子、
会う日までまだ時間がある。
気持ちをつなぎとめるためには、
どうしたらいいのかな。
とにかく会うまではわからない。
今はそう思うしかない。