相手に気に入られるために、
自分の立場を良くするために、
そういうところに動機を置いてしまうと、
大切な何かを置き去りにしてしまう。
どんどんどんどん先に進んで、
気が付くと大切なものが足りない。
生きるために必要だと思うものは、
全部カバンに詰め込んできたはずなのに、
何が足りないのかもわからないから、
結局はそれを探すために引き返すことになる。
進んだ分だけ骨が折れる。
時間も距離も離れてしまうから、
「大切な何か」
それを見つけたところで、
それを拾い上げるためにはその手は汚れすぎていた。
そのしつこい汚れは、
どんなにゴシゴシこすっても、
なかなか落ちてはくれないみたいだ。
だけれどもその真っ白な、
「大切な何か」を汚すわけにはいかないな。
そうしてそれを目の前にして、
結局は辿ってきた道を引き返すことになる。
「汚れてしまったな」
誰かがそうつぶやいた。
よく聞くと自分の声だった。