転職前の話、
会社が移転することになって、
その最後の出勤日、
割と通っていたパン屋、
「ANTENDO」で昼ごはんを買うことにした。
会計を済ませると、
「いつもありがとうございます」
「ん?」と思って顔を上げると、
可愛らしい若い女性の笑顔、
若い女性には目のない私だが、
見覚えのない顔だった。
「いつも」
初めてそんなことを言われた。
ポイントカードを出したわけではない。
「今日で最後なんだよな」
声には出さなかったけれど、
心のなかでそう思った。
私は意識していなかったけれど、
向こうは見ていたのだな。
私はただの常連さん、
別に他意はないだろうけれど、
出会いってそういうところにもあるのだろうな。
「今日で最後なんですよ」
あそこで声に出したならば、
何かが始まることはあったのかな。
そんな0.000001%に思いを馳せてみるのも風情がある。
そういえば私のいとこは、
通っていたカフェの店員さんと結婚したと聞く。
アンテナを張りすぎて、
若い女性ばかりを目で追うようではいけないけれど、
日常の中にある出会いにもう少し目を向けても良いのかな。
それにしても店員さん、
素敵な笑顔だったな。
ホイップあんぱんの味とともに、
思い出の中に吸い込まれていく。