「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

「感情」の外注化

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はてなブックマークにもエントリーされていたけれど、

権威ある雑誌に掲載されたという論文、


それによると、

脳のあるスポットに電気を流すことで、

うつ症状緩和どころか多幸感をもたらす実験結果が出たらしい。


頭に機器を埋め込んで、

定期的に電気を流すことで、

「うつ」の根治に至ると期待されているようだ。


これにより理論上は「喜び」という感情を、

物理的な刺激によりコントロールできるということになる。


ここまでくるとSFの世界に片足を突っ込んでいる。


伊藤計劃『ハーモニー』


人類はナノ分子を体に注入することで、

「健康」を機械に委ねることになる。

 

人体は世界の貴重な資源として管理され、

不健康な行いは淘汰されていく。


教育は画一的で無機質なものとなり、

あらゆるストレス要因は禁忌として撲滅される。


日本SF最高傑作との呼び声も高い本作は、

ユートピア」でありながら「ディストピア

そんな世界観を見事に描いている。


現実は確実にこれに近づいている。

書評を書いた時にも同じような感想を述べた。

 

tureture30.hatenadiary.jp

 

ウェアラブル端末における健康管理、

そこで留めておけば、

人類の英知の素晴らしさを私は手放しで称賛する。

 

だけれども、

「感情」の外注化、


テクノロジーがそこまで進んでしまったら、

何をもって「自我」を定義付ければいいのだろうか。


「うつ」の画期的な治療法、

そういう意味での「希望」はあるのだろう。


私も「パニック障害」の経験があるので、

もちろん症状は個人により全く異なるものだけれども、

その「言いようもない辛さ」は理解できる。


だけれども、

本当にそれでいいのかな?


これがスタンダードな治療法になってしまったら、

治療者はみんな疑似的に生み出された感情に、

そんな「まやかし」の中に生かされていることにならないのかな。


嬉しくもないのに「嬉しい」と思って、

何が幸せだかわからないのに「幸せ」を感じて、

これから先そうやって生きていくのかな。


おそらく麻薬と同じように、

この治療法には依存性もあるのだろう。


かつて脳の一部を切り取って、

感情をなくして廃人を生み出した「ロボトミー手術」

それに近しい「狂気」を感じるのは私だけだろうか。

 

踏み込みすぎると投薬治療の是非に触れるので、

ここらで踏みとどまるけれど、

人の感情はそんなに簡単なものではない。


無理やり生み出した多幸感、

どこかにひずみが生じておかしなことになる。


人の感情って言うのはさ。


「自分が生み出した」という「一貫性」が、

必要なんじゃないのかな。


「生み出された感情」に対する責任は誰にあるの?


そう問われたときに頭を悩ませるようならば、

それは「生きている」って言えるのかな。


「うつ」だって、

「依存症」だって、

パニック障害」だって、

ある意味では全部自己責任なのだ。


どんなに辛くたって、

苦しくたって、

それを受け止めるところからがスタート、


その先の人生は、

その延長線上にしかないんじゃないかな。

 

もちろん、

療養が必要な時期はある。

自己判断で大いに治療を受ければいい。

 

ゆっくりでいい。

自分のペースでいい。

 

だけれども、

どこかで立ち上がらなければならない。


少なくとも私は「死ぬ思い」をして、

投薬治療を受けることなく、

今の私にたどり着いた。


それを強要するつもりはないけれど、

私は「私の感情」を「別の何か」に委ねたいとは思わない。


「私の心」は私のものだ。

そう思うのは私だけだろうか。