ほら、あそこにいる「嫌いなあいつ」
あれはきっと幻か何か。
あいつがぼくの近くにいるはずなんてないのだから、
さんざんひどいことをして、
さんざんぼくを傷つけて、
そんな「あいつ」がこんな近くにいるはずなんてない。
だからぼくは「あいつ」の存在を認めない。
「あいつ」と話している時だって、
「人形」か何かと話しているんだって思い込んで、
「あいつ」と肌が触れた時だって、
「あいつ」に血が通っているはずがない。
その熱は気のせいなんだって思い込んで、
ぼくは「あいつ」の存在を認めない。
表向きは「何でもない」ように接しているけれど、
本人同士はわかっているのだ。
それだけで十分だ。
ぼくは「あいつ」の存在を認めない。
そして「あいつ」もそれに気が付いている。
それ以上、何かをする必要があるのかい?
誰かを味方につけたり、
あからさまに攻撃的な態度を取ったり、
悪口を言いふらしたり、
そんなことをする必要があるのかい?
「あいつ」はそういうことをしてきても、
ぼくはそのことを気にしない。
だって「あいつ」は存在しないのだから、
こんな嫌がらせだってきっとすべて幻なんだ。
だって「あいつ」は存在しないのだから、
この苦しみだってきっと幻だ。
ぼくだって、もうすぐここには存在しなくなるのだから、