「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

映画『アラジン』で思い出す、甘く切ない思い出

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2年前の夏だった。

彼女は梅雨とともに現れて、梅雨明けとともに私の元から去っていった。

 

「思い出はいつの日も雨」

 

会うときは決まって雨だった。

そんな映画の好きな「雨女」さん。

 

当時公開されていた新海誠さんの映画『天気の子』

あの映画のヒロインは「100%の晴れ女」

彼女とはなんとも対照的だと思ったことを鮮明に覚えている。

 

アプリでの出会い、

初対面から「こんなに話しやすい相手がいるのか」と心惹かれた。

その日の帰りにはお互いが自然と敬語ではなくなっていた。

別れ際に笑顔で手を振る彼女、

その姿に私の心は鷲掴みにされてしまった。

 

彼女の仕事の都合で2度目のデートまで少し間は空いたけれど、

電話をしたり、毎日メッセージを送り合い気持ちを深めていた。

 

ようやく決まった次の約束、

彼女の希望で、映画『アラジン』を観に行くことになった。

 

仕事終わりに待ち合わせ、

電話を耳に当てながら私の姿を見つけると、

「あっ、いた!」と嬉しそうに駆け寄ってくる彼女、

 

「仕事お疲れ様!疲れているのにありがとね。」と伝えると、

「仕事大変だったけれど、今日はますを君と会うのが楽しみだったから頑張れたの」とのこと、

その一言に私の心は満たされた。

 

少し緊張している私を横目に、何度も肩に手を乗せてくる彼女、

チケットを買い、それを渡すと「ずっと観たいと思ってたの」と無邪気に笑う。

 

どれだけ楽しみにしていたのかを語る彼女、

その姿を見つめていると、映画の幕は上がった。

 

隣に座る彼女の熱や息づかい。

時折漏れる笑い声や驚く声、

彼女の存在を少しでも感じていたくて、

私の意識は前のスクリーンではなく、

彼女の座る右隣に向けられていた。

 

『アラジン』の雰囲気も相まって、

私の気持ちは盛り上がっていく。

 

2度目のデート、

タイミングとしては少し早いけれど、

「今日、気持ちを伝えよう」

映画を見ながらそう心を固めた。

 

映画が終わるとお互いに感想を話しながら、

「手を出して」と切り出す私、

 

差し出された右手をパッと掴み、

そのまま歩き出そうとすると、

「どういうこと?」と返す彼女、

「手を繋ぎたいと思って」と返す私の言葉に、

「そうだね」と歩調を合わせてくれた。

 

段差違いのエスカレーター、

一段先に乗っかる私の隣に、

トンと一段降りてきてくれた彼女、

繋がれた手と手、

そこから伝わる温もり、

 

映画館を出たタイミングで信号待ち、

一度恥ずかしそうに手を離す彼女、

横断歩道を渡ったところでもう一度手を繋ぎ直す。

お互いの指の間に指を滑り込ませる「恋人繋ぎ」

 

私が彼女に最も近づいた瞬間だった。

心も、そして体も、

 

駅が見えてくる。

このまま二人の時間は終わってしまう。

 

言おう。次のチャンスはないかもしれない。

言おう。言おう。ここで言おう。

 

意を決して切り出す。

「付き合ってもらえませんか?」

 

ベンチに座り向かい合う二人、

真剣に私の目を見つめる彼女、

 

「まだ会ってから1ヶ月だけれども、いい加減な気持ちではないよ。

将来のことも考えて付き合ってもらえませんか?」

 

改めてそう伝えると、

「難しいなぁ」とはにかみながら、

「少し考えたい」との返答、

 

彼女からの提案、

「次は少し遠くに行ってみよう」だなんて話しながら、

「今日は楽しかった」という言葉とともに、

ホームで手を振って別れる。

 

笑顔で「風邪引くなよ」だなんて言いながら手を振る彼女、

 

それが私の観た彼女の最後の姿だった。

 

彼女を乗せた電車は、

勢いを増して進んでいく。

そして程なく私も電車に乗る。

 

両車は二人の間を引き裂くように、

真逆の方向へと進んでいく。

どんどんどんどん進んでいく。

 

メッセージは続くけれど、

徐々に鈍るレスポンス、

電話をしてもどこか上の空、

次の約束は彼女の「仕事の都合」で流れてしまった。

 

「電話をしたい」と彼女からのLINE、

まるで瑛人さんの『香水』のようだ。

夜中ではなく日中だったし、

彼女の使う香水のメーカーなんてものは私にはわからないけれど、

 

「空いている時間、いつでも構わないので教えてください」とのこと、

あれだけ無遠慮だった彼女から敬語で送られてきたメッセージ、

 

予感は十分にあった。

「ダメかな」と思いながら、

仕事を終えて電話をかけると、

「ごめんなさい」の一言、

 

「もっとわがままを言って欲しかった」

そんなよくわからない理由だった。

 

こうして私の恋は終わった。

30を過ぎてからこんな気持ちになれたこと、

そのことは彼女に感謝している。

 

しばらくすると梅雨が明けた。

通勤途中、民家の庭の一角に見える咲きかけの向日葵、

それを元にこんな記事を書いた。

tureture30.hatenadiary.jp

 

もう2年近く一度も会っていない相手に対しても、

私の心は引き摺られているのかな。

 

映画『アラジン』が地上波で初めて放送されたけれど、

私にはそれを見ることはできなかった。

 

とても良い作品だったと記憶しているけれど、

どうしても心がそちらに向かないのだ。

 

彼女と繋いだ手の温もり、

正直、その感触は私の手に全く残っていないけれど、

彼女と過ごしたたった一ヶ月の時間は、

私の記憶に残り続けているのだ。

 

私の「ジャスミン」はいつまで経っても現れない。

いっそのこと、ランプの力を借りてでもいい。

現れてはくれないだろうかと、切に願う。

 

私にはまた、大切な人と隣に座って、

心から満たされた気持ちで、

『アラジン』を見る日が来るのだろうか。