いつも空いている君の隣はぼくの指定席、
仕事から帰ってきた君はどこか疲れているように見えた。
ぼくがいつものように「みゃー」と話しかけてみても気が付かない。
いつもだったらぼくの頭を優しくなでて「ただいま」と言ってくれるのに、
洗面所から声が聞こえてくる。
「う、う、」って、とても悲しそうな声だ。
足元にすり寄って「みゃー」と一声かけるとやっと気が付いてくれた。
涙を流しているのかな。
そんなものは、ぼくが舐めてなかったことにしてあげる。
抱き上げられた時にペロリとしょっぱい粒を舐めると、君は笑顔を取り戻した。
それから君は帰りが遅くなっていった。
それでも君の足音に気が付くと「おかえり」って伝えるために「みゃー」と鳴く。
いつも君の悲しそうな声にかき消されてしまうのだけれども、
それでもぼくは「みゃー」と鳴く。
ぼくはいつも君のことを待っているのだから、
しばらくすると、君は家からでなくなった。
そしてまた、君の隣はぼくの指定席となった。
うつむいて、うずくまって、あまりぼくのことを見てはくれないのだけれど、
それでも、君の隣にいられることは嬉しかった。
だからいつも寄り添った。
君はたまにぼくの頭をなでてくれた。
その時だけ君の笑顔が見られた。
もうしばらくすると、君は動かなくなった。
ぼくのご飯は床に散らばっているから食べ放題、
いつもならおねだりをしないとくれないのに、気前がいいな。
「みゃー」と声をかけても君は返事をしない。
ぼくの声が聞こえなくなってしまったのかな。
寄り添うと体は冷たく硬い。
まるで君じゃないみたいだ。
突然鳴り響くノックの音、ガチャリと扉が開くと君のお母さんが飛び込んでくる。
「みゃー」とあいさつをしたぼくのことは目に入らないみたいだ。
君のことを見つけたお母さんは大きな声を挙げる。
それからすぐに周りは騒がしくなった。
ぼくはお母さんに抱きかかえられると、「大変だったね」と言われる。
大変なことなんてないさ。
君の隣にずっといられたのだから、
なんだか眠くなってきたな。
君の声が聞こえてきたよ。
これからもずっといっしょにいようね。
君の隣はぼくの指定席だから、