「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

君の隣はぼくの指定席

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いつも空いている君の隣はぼくの指定席、


仕事から帰ってきた君はどこか疲れているように見えた。


ぼくがいつものように「みゃー」と話しかけてみても気が付かない。


いつもだったらぼくの頭を優しくなでて「ただいま」と言ってくれるのに、


洗面所から声が聞こえてくる。


「う、う、」って、とても悲しそうな声だ。


足元にすり寄って「みゃー」と一声かけるとやっと気が付いてくれた。


涙を流しているのかな。


そんなものは、ぼくが舐めてなかったことにしてあげる。


抱き上げられた時にペロリとしょっぱい粒を舐めると、君は笑顔を取り戻した。


それから君は帰りが遅くなっていった。


それでも君の足音に気が付くと「おかえり」って伝えるために「みゃー」と鳴く。


いつも君の悲しそうな声にかき消されてしまうのだけれども、


それでもぼくは「みゃー」と鳴く。


ぼくはいつも君のことを待っているのだから、


しばらくすると、君は家からでなくなった。


そしてまた、君の隣はぼくの指定席となった。


うつむいて、うずくまって、あまりぼくのことを見てはくれないのだけれど、


それでも、君の隣にいられることは嬉しかった。


だからいつも寄り添った。


君はたまにぼくの頭をなでてくれた。


その時だけ君の笑顔が見られた。


もうしばらくすると、君は動かなくなった。


ぼくのご飯は床に散らばっているから食べ放題、


いつもならおねだりをしないとくれないのに、気前がいいな。


「みゃー」と声をかけても君は返事をしない。


ぼくの声が聞こえなくなってしまったのかな。


寄り添うと体は冷たく硬い。


まるで君じゃないみたいだ。


突然鳴り響くノックの音、ガチャリと扉が開くと君のお母さんが飛び込んでくる。


「みゃー」とあいさつをしたぼくのことは目に入らないみたいだ。


君のことを見つけたお母さんは大きな声を挙げる。


それからすぐに周りは騒がしくなった。


ぼくはお母さんに抱きかかえられると、「大変だったね」と言われる。


大変なことなんてないさ。


君の隣にずっといられたのだから、


なんだか眠くなってきたな。


君の声が聞こえてきたよ。


これからもずっといっしょにいようね。


君の隣はぼくの指定席だから、