「ますをくんは、私にとって、もう家族だから」
ふと、彼女がそう言った。
彼女からしたら、
私はすでに「家族」と同じ扱いらしい。
もう少し恋人気分を味わいたい気持ちがあったものだから、それはそれで寂しい気がするけれど、
その言葉を聞いて、私も彼女のことを「家族」として見ようと思った。
経済的な面では「どうせ結婚するのだから同じ」と、デート費用のほぼ全てを私が払っていた。
だけれども、心理的な面では、私はまだ彼女のことを「家族」として見ることはできていなかった。
彼女の一言は、それを私に気づかせてくれた。
これから先、一緒に生活することになる。
そのことを漠然とは意識していたけれど、深く考えてみると、あまり実感は湧かない。
改めて、気持ちを深めていく必要があるのだろう。
その辺りの覚悟は女性の方が強い。
そして現実的だ。
彼女からしたら、私を逃すわけにはいかないのだろう。
そんな強い意志を感じる。
かと言って、結婚相手という割り切った関係ではない。
時には彼女の方からベタベタくっついてきたり、
「私の心はますをくんに落とされた」だなんて、
会話の最中にドキッとする一言を混ぜてくる。
それも私を逃さないための計算かどうかは知らないけれど、
彼女が意外と尽くすタイプで、私に尽くしたいと思っていることは、その言葉や行動の端々から感じ取ることができる。
「恋愛は、美しい誤解であり、結婚は、惨めな理解」
そんなことを言っていた人がいたけれど、今の私たちはまだ、お互いの素敵なところばかりを見ているのだろう。
一緒に生活を始めたら、嫌でもこれまでに見えなかったところが見えてくる。
それでも、先に進むという選択をしたからには、擦り合わせをしながら、共に生きていくことになる。
今は「誤解」に身を任せながら、とにかく先に進むしかないのかもしれない。
あとのことは、先になってみないとわからないのだ。
彼女は私から見て、少し舞い上がっている様子。
逆に私の方は、だいぶ客観的だ。
クールで聡明なイメージだった、初対面の彼女はどこへ行ったのだろう。
それほど、女性にとっての結婚は大きなイベントなのだろう。
そして、彼女はその相手として、私のことを選んでくれている。
少しばかり、私の方がマリッジブルーに包まれているけれど、嬉しそうな彼女の姿を見るたびに、このままでは申し訳ないなと思う。
どんどん外堀は埋まっていく。
私が彼女を攻略していたはずなのに、気がつくと私の方が攻略されようとしているようだ。
やはり、私の彼女は聡明なのかもしれない。
私はいつも女性から搾取される側なのだ。
だけれども、彼女からは確かな思いやりを感じる。
そろそろ攻略される頃合いなのだろう。
ここらで城門を開いて、私は彼女の存在を通して、
「女性たち」との和睦を結ぶことになる。
長きにわたる、私と女性たちとの戦争は、
もう少しで終わりを告げるのだ。
「もう恋愛のことで悩まなくていい」
彼女と家族になることで、私は解放されるのだ。