私の肩にもたれて、
腕にまとわりつく彼女の体、
その重みを心地よく思いながら、
私は彼女の頭を撫でる。
その流れがあまりにも自然だったから、
「俺らは、相性が良いのかもしれないね」
私がそう呟くと、
ふと彼女が口を開く。
「これまで付き合った人とはどうだったの?」
とても答えにくい質問だ。
そもそも私が前に女性と付き合ったのは、
15年も前のことになる。
友人としては、とても親しかった。
だけれども、付き合ってからは少し違った。
そういう女性だった。
手の感触は覚えていないし、
直接唇を重ねることもなかった。
何度も書いているが、
当時は2晩を共にしても手を出せなかった。
相手は少し年上で、学生と社会人、
立場の違いからすれ違い、
別れ話をすることもなく徐々に連絡は途絶えた。
それが、私の唯一の交際経験だ。
だから彼女に対して語れるほどのものはない。
その時は彼女に対して「こんなに相性の良い女性と出会ったことはないよ」と答えたが、
この答えは私の中で少し、というか、かなり引っ掛かっている。
私は素直に、まともな男女としての経験がないことを話したほうが良かったのだろうか。
そもそも彼女がこの質問をした意図はどこにあったのだろう。
「過去の相手に対する嫉妬」だろうか。
「自信の無さ」からポロリと出た一言だろうか。
それとも、深い意味はなかったのだろうか。
もし、意味があったとするならば、比較すべき相手はいないことを伝えたほうが、彼女は安心してくれたのかもしれない。
私がしょうもない見栄のために、彼女の安心を奪ったのだとしたら、それは本意ではない。
実際はただの「腐れ童貞」なのだが、
彼女から見た私は、それなりに交際経験があり、女性慣れしているように映るらしい。
それは婚活で17人だったか、とデートを重ねた訓練の賜物なのかもしれない。
私は、私らしさを全面に出して、ピュアな様子で彼女に接するべきなのだろうか。
それとも、大人の男を気取っていれば良いのだろうか。
そもそも、彼女は私の経験不足に気がついているのだろうか。
その上で、このような質問を投げかけたのだろうか。
ただ、間違いなく言えることは、彼女が私のことをしっかりと男として好きでいてくれているということ、
そうでなければ、肩にもたれているときに、私の過去を詮索しようとなどしないはずだ。
「それだけでいい」
その気持ちが確かなものであればそれでいい。
私たちは、出会ってから日が浅いことに加えて、驚くほど早いスピードで関係性が進むものだから、二人で決めて「恋人としての時間」を大事にしようと努めている。
年甲斐もなく、いつも手を繋ぎ、路上で見つめあったりしながら、「完全にバカップルだね」と言い合うこともあった。
その時の彼女の嬉しそうな顔が忘れられない。
「二人の形」
昔ならば、出会って2度目が結婚の日なんてこともあったらしいけれど、今は数年の交際を経て結婚に至ることが一般的な時代だ。
私たちは、一般的なそれとはかけ離れた形で関係を深めている。
スピード婚に向けてのスケジュールは、驚くほど早く決まっていき、タスクをこなすだけで息つく暇もない。
「恋人」というフェーズから先に進んで、半分ほどは、既に「目的を分かち合う共同体」へと進んだ印象すらある。
「これまで付き合った人とはどうだったの?」
もう一度、その質問を浴びせられたときには、私は私の過去を包み隠さずに話したほうがよさそうだ。
カッコつける必要はない。
もはや「共同体」
ここからは、お互いが自然でいられることが大事になってくるはずだ。
お互いの心は繋がっている。
そう思えるうちに、見栄は捨てておいたほうが今後のためだ。