キスをしようとしたら、かわされた。
ハグをしようとしたら、はぐらかされた。
私としては、頃合いを見計らったつもりでいたけれど、関係はなかなか先に進まなかった。
そんな始まりから、しばらく時を経て、
彼女の態度は徐々に変わっていく。
私の腕に抱きついてきたり、「泊まりの旅行に行きたい」と言ってきたり、私の部屋の様子に興味を持つような話を持ちかけてくる。
「嫌なことは絶対にしない」
そう宣言して、有言実行を貫く私に対して、
彼女のほうが痺れを切らしたのかもしれない。
私からすれば、これまで未経験で生きてきたわけだから、今更焦ることはない。
体の繋がりがないことに対する不安は感じない。
結婚に向けて話は進んでいるわけだから、
「一緒になれば、自然とそういうことをするようになるだろう」
それくらいの認識でいた。
しかし、そういうわけにはいかないのかもしれない。
彼女からすれば、一度軽く拒否したくらいで、その後は一切手出しをしようとしない私の態度に不安を感じているのだろうか。
正直、私の恋愛観は高校生くらいで止まっているものだから、手を繋いでデートをしたり、腕を組んだ時にあたる彼女の胸の感触程度で満足しているところがある。
婚前交渉をしないのであれば、それで構わないし、経験自体がないものだから、体の相性云々のこともわからない。
「触れたい」という思いはあるけれど、それは彼女に個人に向けられたものなのか。
それとも、きれいな女性であれば誰でもいいのか。
それはわからない。
それを糧にして彼女との関係を続けることもやぶさかではないくらいに、私と彼女の関係は熟してきた。
プラトニックな関係だけでは、私はあまり彼女と過ごすメリットを感じられなくなってきているのだろう。
おそらく私も「男」への階段を登っているのだ。
さて、私はどうしたら良いのだろう。
彼女と話し合いの場を設けるわけにもいかないから、自然とそういう機会を設けるように努めたほうがいいのだろうか。
「これだから童貞は、、、」
ため息と共に、そんな声が聞こえてきそうだ。
彼女のそうしたアピールに対して、下半身はしっかりと反応しているのだけれども、私にできることは、頭を撫でたり、体を抱き寄せて温もりを共有することくらいだ。
私は彼女のことを不安にさせているのだろうか。
それとも、安心させているのだろうか。
「結婚」に向けて関係は先に進んでいる。
この状況では、早くに体を繋げた方が誠実なのか。
それとも、待つ方が誠実なのか。
あとは成り行きに任せるしかないのだろう。
少し先にはなるけれど、お泊まりの日取りは決まった。
おそらくその日は私にとって、卒業の日となるはずだ。
私と女性たちとの戦いは、もうすぐ終わりを告げる。
尾崎豊『卒業』