社員を馬車馬の如く働かせるために、
「自己実現」という言葉で、経営者が従業員をたきつける時代から、次の時代へと変わりつつある。
「次の時代」は、「会社が従業員の生活を、ある程度保証しますよ」という時代だ。
売り手市場となって久しい。
優秀な人材を確保するために、企業は「あの手この手」を使っている。
実態はともかくとして、外から見たらホワイトに見えるような文言をつらつらと並べて、入り口の段階で興味を引く。
少なくとも、それをしなければ、選択肢のある求職者側からは見向きもされないような時代なのだ。
「有給を取りやすい。お互いが協力し合う風土がある」
そう書いていて、属人化が激しく自由に有給など取りにくいどころか、エンドレスで働かなければならなかったりする。
「有給を取りやすい」カラクリは、お盆や年末年始に社休日を減らして、前後に半強制的に有給を取得させることで、有給取得率を上げるという会社もあったりする。
「女性の管理職登用率」や「男性の育児休暇取得率」
実しやかな高い数字を挙げていたとしても、その数字にカラクリがあることがほとんどなのかもしれない。
企業は、ビジネスを目的としたゲゼルシャフトだ。
その点からすれば、多少不誠実であったとしても、目的を果たすことが是とされる集団な訳だから、この手の話も当たり前なのかもしれない。
要は、社会養成に従っているようで、その本質は何も変わらないのだ。
いかに組織が損をせずに、従業員のモチベーションを下げることなく使い倒すか。
経済的目的を果たすために有能な経営者であれば、この手の権謀術数に長けているのだろう。
従業員に冷静に考える時間を与えてしまうと、ヘイトが溜まるものだから、そうさせないように、忙しくて首が回らないようにすることもまた、隠れた経営方針だったりする。
しかし、今の時代は、従業員が簡単に他の企業の情報をクチコミで手に入れられる時代だ。
そうなると、時間がなかったとしても、ふとした瞬間に、気がついてしまうのだ。
そして、「おかしい」と判断された企業からは人が離れていき、会社が立ち行かなくなる。
その危機に瀕して初めて経営者がテコ入れをしたところで、後の祭りなのだ。
優秀な人材の多くは流出しており、残った人は逃げ切りを考える世代か、会社にしがみつく人たち。
残った人材への負荷は上がり、その人たちも疲弊するとともに見切りをつけて離れていく。
そうした組織は「茹でガエル」のように、気が付かない速度で崩壊していくのだ。
難しい時代だね。
「優秀」であれば、いくらでも好条件を勝ち取ることのできる時代。
その反面で、昔からの終身雇用は根強く生き続けている。
企業の舵取りは、ますます難しい時代に進んでいくのだろう。
若い世代は、自分たちの立場が強いことを肌で感じている。
だから、気に食わないことがあれば、サイレントで離脱の準備を始めて、気がついた頃には退職を口にする。
いまや「会社にしがみつく時代」は、終わったのだ。
これから先の時代は、個々人が能力を身につけて、自己責任で賃金を稼ぐ時代だ。
「資本主義の波」に飲まれそうで飲まれてはいなかった日本だが、これから先は、本格的に実力主義の時代が到来するのかもしれない。