「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

書評

安川康介『最高の勉強法』

米国の内科医という外国人にとっては非常に狭き門を潜り抜けた著者の勉強法が書かれた本だ。 従来の繰り返し読む方法や、テキストの内容をノートにまとめる方法は「効果がない」と言うエビデンスから始まり、科学的に根拠のある効果の高い学習方法を記載して…

朝井リョウ『正欲』

タイトルの「正欲」には二つの意味がある。 1つは「本能から湧き上がる固有の性欲」 もう一つは「正義を貫きたいという欲求」だ。 誰にも正解などわからない。 異性の生殖器に対して性欲を抱くことすらも、本当に正しいことなのかを判断できる人間など、この…

ユヴァル・ノア・ハラリ『ホモ・デウス』

非常に危険な本だ。 なぜなら、人が人であり続けるためのハードルが非常に高いことを、史実やデータに基づく事実から痛いほど突きつけてくる内容だからだ。 「人間至上主義」 思えば私たちは、長いことその思想に浴していたのだろう。 人の経験や感情。つま…

杉井光『世界で一番透き通った物語』

別の本を目当てにAmazonを覗いていたところ、 「電子書籍化不可能、紙の本でしか体験できない感動がある」 そんなキャッチフレーズに惹かれて、ついカートに入れてしまった本だ。 確かに凄かった。 何がすごいかというと「技法」だ。 これ以上はネタバレにな…

ミヒャエル・エンデ『モモ』

「全ての人が死を恐れなくなれば、誰かに時間を奪われることなど決してなくなる」 とても印象に残る、作中のフレーズだ。 執筆は1970年。 50年の時を経て、しっかりと時の洗礼を受けた作品である。 自らの時間を、自分の幸せと結びつけて使うことのできる少…

ドストエフスキー『罪と罰』

年末のまとめ記事にも書いたけれど、 おそらく昨年読んだ本の中では一番印象に残る作品だ。 tureture30.hatenadiary.jp 久々の書評だ。 筆を執らずにはいられない力のある作品だった。 読んでからあまり日が経っていないから、記憶として残りやすいのは当た…

古市憲寿『平成くん、さようなら』

久々の書評だ。 筆を執りたくなるくらいに良く書けた作品だと思う。 だが、著者の人柄と同じように、この作品は人を選ぶ作品なのだろう。 レビューには「嫌いだ」という声が並ぶ。 古市憲寿さん、 名前だけだとピンとこないかもしれないが、とくダネに出てい…

「純文学」に欠かせない「世界の外側からの目」

「自分と周りとの距離感がわからない」 あるいは「自分の周りに大きな壁を作り上げて外界との交流を手段する」 そんな主人公から見た世界、 いわゆる「世界の外側からの目」というもの、 昨今の「純文学」と呼ばれるものには、 そういうものが多い。 「発達…

稀代の異色作『チェンソーマン』を読んで感じたこと

先日記事にした『葬送のフリーレン』を抑えて、 宝島社が発表した「このマンガがすごい2021」で第1位に輝いた『チェンソーマン』 その第一部を読み終えた。 「このマンガがすごい」の詳細は過去記事にて、 tureture30.hatenadiary.jp メタファー満載というか…

話題作『葬送のフリーレン』第3巻までを読んだ

宝島社より発表された、 「このマンガがすごい2021」において、 『チェンソーマン』に次ぐ第2位に輝いた作品、 舞台設定がとても面白い。 勇者と旅をして魔王から世界を救った魔法使い、 1000年以上生きるエルフのフリーレンが主人公だ。 人とは時の流れ方が…

「言葉」は「機能」ではなく「器官」である

伊藤計劃『虐殺器官』 まだ読了していないが、 表題はおそらく作品テーマの核心に迫る部分だ。 氏の作品を読むのは、 先日記事にした『ハーモニー』に続き2作目、 デビューわずか2年での病死、 闘病しながらの執筆、 文章表現が巧みで「立体的」にすら感じる…

伊藤計劃『ハーモニー』

「人類が目指す理想の最果て」 テーマの面白さも去ることながら、 緻密な構成と世界観、 そして比喩表現や言葉の言い回し、 章を終えるごとに次のページをめくりたくなる疾走感、 一行一行にとてつもないセンスを感じる。 文庫本にして350ページ余り、 小説…

「文章による自己表現」は誰の精神をも解放しない

村上春樹『回転木馬のデッド・ヒート』 以下引用 少なくとも文章による自己表現は誰の精神をも解放しない。 もしそのような目的のために自己表現を志している方がおられるとしたら、 それは辞めた方がいい。 自己表現は精神を細分化するだけであり、それはど…

天童荒太『悼む人』

直木賞受賞作、 随分前に読んだ本だが、 なぜか「読みたい」と心が問いかけてきた。 導かれるように購入し再読した。 紛れもない名作だ。 この時に読んで良かったと思う。 テーマは「死の恐怖、その根元と向き合うこと」 そんなところだろうか。 巻末の書評…

「読書」との付き合い方について

平成30年度、文化庁の調査によると、 16歳以上の国民を対象として、 月に1冊以上の読書をする割合は約53%らしい。 この数字は、 16年前の平成14年では約62%と10%ほど高かったようだが、 平成20年以降の調査ではさほど変わらないようだ。 平成30年度、 月…

アルベール・カミュ『異邦人』

ノーベル賞作家、 アルベール・カミュの代表作、 確か学生の頃に課題か何かで購入したもの、 書棚を漁っていると出てきたので、 ふと手に取るとそのまま最後まで読んでしまった。 テーマはとても多様な解釈ができる。 私の解釈では、 「アナキストの視点から…

吉本ばなな『哀しい予感』

いくつかの吉本ばななさんの作品を読んで、 とても感じること、 文章にみずみずしさがある。 言葉の選び方は天性のものだろう。 「じん」と心の芯に響く。 このような文章を書けるようになりたいものだ。 最初期の作品、 荒削りさがそのまま勢いとなり疾走感…

村上春樹『国境の南、太陽の西』

おそらくこの作品は、 村上春樹氏の長編作で、 最も知名度の低いものだろう。 テーマはとても複雑だ。 「自分の人生を生きること、 そしてそれに責任を取ること、 そしてその先に待ち構えているものが虚しく、 夢や希望というものは誰かが演じる役割の先にあ…

二階堂奥歯『八本脚の蝶』

「世界の見え方」は人によって違う。 私に見える世界は、 どうやらまだまだ薄っぺらいようだ。 私がこんな私になってから、 まだ4年足らず、 その4年間で急速に取りこぼしてきた色々なものを回収している気がする。 二階堂奥歯『八本脚の蝶』 25歳、 若くし…

カズオ・イシグロ『わたしを離さないで』

ノーベル文学賞作家であるカズオ・イシグロさんの作品 『わたしを離さないで』を読了、 洋画作品として映画化され、 日本でもドラマ化された。 少年ジャンプで連載中の『約束のネバーランド』の元ネタとの噂がある。 臓器提供のために生み出された、 クロー…

スクラップアンドビルド

羽田圭介さんの芥川賞受賞作、 手に取る機会があり読んでみた。 著者は私と同世代、 他の作品を読んではいないけれど、 「これは」と思った。 「言いたいことを代弁する」 その意味で世代の旗手として力を見せつけた作品、 設定がとてもうまい。 28歳、無職…

ドストエフスキー『おかしな人間の夢』

短編集の中の1つだったけれども、 強烈な印象を受けた作品、 人生に絶望した男が、 自殺することを決意した夜に、 哀れな一人の少女と出会う。 助けを求められるも、 男はそれを振り切って家路に着く。 家に着くと「死」を覚悟したはずの自分に生じた 「憐れ…

砂の女

安部公房『砂の女』 ふとしたきっかけで手にとってみたけれど、 とても示唆に富んだ面白い作品だった。 男には妻がいる。 だけれども関係は冷え切っている。 教師という仕事もある。 だけれども人間関係は希薄だ。 日常に飽き飽きしていて、 唯一の楽しみは…

ねじまき鳥クロニクル

村上春樹氏の長編小説、 理由もわからずに突然、妻が消えてしまった。 そして他に男がいると別れを切り出される。 主人公は自分の「欠陥」と向き合うことになる。 物語の流れは『騎士団長殺し』と同じ、 設定も似ているところが多く、 後年に書かれた『騎士…

村田沙耶香

最近よく手に取る作家、 村田沙耶香さん、 芥川賞作『コンビニ人間』は、 随分前に一度記事にした。 tureture30.hatenadiary.jp 彼女の作品は一言で言えば、 「強烈」 読後にとても強烈な印象を残してくれる。 主人公は「世界」を「社会」というフィルターを…

30代はダークサイドに落ちやすい

みずみずしい将来への希望をいだいた10代まで、 それを形にしようと奮起した20代、 そして大きな決断を迫られる30代、 本田健『30代にしておきたい17のこと』 たまたま書店で目につき手に取った。 それによると30代はダークサイドに落ちやすいみたい。 あま…

神様よりも人間の方がずっと優しい

重松清『その日のまえに』から、 病気の妻が亡くなる直前の描写、 「神様は妻に対してとことん意地悪だった。 神様も涙を流すのだろうか」 そんな時に発した義父の言葉、 「丈夫な子に産んでやれないですまなかった」 神様よりも人間の方がずっと優しい。 「…

アムリタ

よしもとばななさんの長編作、 友人に勧められて読了、 過去の自分を思い出せなくなるような経験、 主人公の朔美は頭を打って、 世界の見え方が変わってしまった。 そんなニュートラルな視点から捉える日常やら非日常、 示唆に富んだ表現が多く、 染み渡るよ…

コンビニ人間

村田沙耶香さんの芥川賞受賞作、 概略だけは知っていて気になっていたので読了、 少し夜更かしをして一気に読んでしまった。 ドキッとするような文章を書くのが上手い作家さんとの印象、 テーマは「集団同調の本質と生きがい」か。 社会における「当たり前」…

君の膵臓をたべたい

勧められて原作の方も読了、 テーマは「人はいつ死ぬかわからない」 もしも余命を宣告されたならば、 残された時間は何をするか。 会いたい人と会って、 やりたいことをやって、 できることは限られている。 それならば、それを差し引いた時間は、 「いつも…