藤井聡太七段の躍進が話題になっている。
「天才棋士」
そう呼ばれる裏にある苦悩、
そんなものを薄暗くかつ鮮やかに描いている。
そのコントラストは見事だ。
「苦悩を突き抜けて歓喜に至れ」
ベートーヴェンの生涯を表す名言、
そんな印象の作品だった。
原作は「ヤングアニマル」で連載中、
『はちみつとクローバー』で有名な羽海野チカさんの作品、
【あらすじ】
幼いころに家族を事故で亡くした主人公は、
父のプロ棋士である友人に引き取られる。
生きるためには「将棋で強くなるしかない」
そこからの生活はそんなものだった。
プロ棋士の実子よりも強くなってしまい、
それが原因で家庭は崩壊、
家を出ていかざるを得なくなるも、
中学生にして自らもプロ棋士になる。
将棋は勝負事だ。
明確に勝ち負けが存在する。
それにより相手の人生を損なうこともある。
「俺には将棋しかないんだよ!」
そう叫びながら、
自分に言い聞かせながら、
生きるために将棋にのめりこむ。
酩酊状態を助けられて出会った、
近所の三姉妹に家族同然に接してもらう中で、
どこか埋まらない心の穴を埋めていく。
母を亡くし、
父は女を作って家を出ていく。
そんな中でも健気に生きる3姉妹、
長女は倉科カナさん、
主人公が恋する次女は、
来年朝ドラに主演する清原果耶さん、
そして三女は驚いたのだが、
新海誠監督の娘さんである新津ちせちゃんとのこと、
きっと彼女たちにも心に穴があって、
主人公の立場がその穴を埋められたのだろう。
だからこそ自然と惹かれあい、
互いが心の支えになる。
人の醜さと美しさのせめぎあい、
人は「強く儚いもの」で、
「居場所」を守るためには悪魔にでもなれる。
それと同時に「居場所」を失うだけでひどく脆く儚くなる。
全編通してとにかく悩む。
そしてちょい救われる。
また別のことで悩む。
そんな繰り返しの作品、
一つのことに向き合って、向き合って、向き合い抜いて、
悩んで、悩んで、悩み抜いて、
その先に至るカタルシス、
それが「歓喜」というものなのだろう。
アスリートもそうだろう。
勝負事を職業にするって大変なこと、
生活が懸かっているから生半可な覚悟では続かない。
ヒーローでも何でもない。
その裏には見えない苦悩が渦巻いている。
それをメディアはきれいに切り取って、
子供たちの「夢」に仕立て上げる。
そうやって当人たちにさらなるプレッシャーを与えるのだ。
それを乗り越えたものだけが、
きっとその世界で生き延びていくのだろう。
先日放送されたドキュメンタリーで、
「今だから言うけれど、誰よりも練習していましたよ」
練習嫌いといわれ続けた彼は、
誰よりも練習していたらしい。
証拠にプロ復帰を目指してから鍛え上げた体は、
48とは思えないほど仕上がっていた。
あれは生半可な努力では作れない体だ。
華やかさの陰には、
その何十倍、何百倍の苦悩が隠されているのだ。
映画の話に戻ろう。
尺の都合があったのだろう。
感情変化の描写が足りないような印象はあったけれども、
神木隆之介くんの「苦悩」の演じ方は見事だったと思う。
そしてそこからのカタルシス、
「悩みぬいた先に至る歓喜」
そういうものを描きたかったのだろう。
3部作にしたらなお良かったように思うが、
どことなく「救い」のある作品だ。
三姉妹もそうだけど、
キャストはとても豪華だった。
気がつかなかったのだけれども、
あの太った役で染谷将太くん、
最近気になっている俳優、
原作は全くの未読だが、
映画は中途半端な終わり方だったため気になってしまった。
とてもよくできた作品だった。