行きずりで誘われた女性と一夜を共にするも、
手を出さなかった三四郎に対しての女性の一言、
「私だなぁ」
そう思った。
何度もチャンスは転がっていたのに、
それを掴み損ねて後悔する。
高潔な精神だとか、
誠実さだとか、
そんなものが先行して、
人生には段階があって、
するべき時に経験すべきことを飛び越えてしまうと、
すっぽりと穴が開いてしまう。
その穴に気がつかずに生きていれば問題はない。
「人並みの人生」
それに目を向けた時に、
自分に足りないものが否応なしに牙を剥く。
「自分は経験していない」
恋愛も中途半端、
体を重ねた経験はない。
その手の話題になるたびに、
それとなくごまかしては、
虚しさを感じて、
「大きな欠落感」
それを埋めるためにがむしゃらに動いている。
愛だの恋だのよりも先に、
そちらが顔を出しているのかもしれない。
そうやって考えすぎて、
また逃げる理由を探している。
私が恋愛できないことは、
自然の摂理なのかもしれない。
物理的に仕方のないことなのだ。
いや、そんなことはない。
出会うべき人がいて、
その人に出会うために、
誠実に覚悟を差し出すために、
こういうシナリオが描かれたのだ。
そんな妄想にしがみついて、
自分を奮い立たせる。
そうしないと、
三四郎の二の舞、
「あなたは余っ程度胸のない方ですね」
二十歳そこそこならば、
綺麗な話にまとまるだろう。
だけれども、
そんなもどかしさを、
この歳になってまで経験したくないな。
いくつもチャンスを逃してきた。
そうやって苦しむのはもうたくさん。