自分の「居場所」が欲しいから、
都合の良い情報だけをかき集めて、
それを材料に「小さな家」を作った。
その「家」の中にいれば、
見たくもないものは見なくていいし、
聞きたくもないものは聞かなくてもいい。
人とのかかわりは必要最低限にとどめて、
あとはその家に引きこもっていればいい。
その「家」は持ち運び可能だから、
どこに行く時でも大事に抱えてさ。
いざとなったらそこに飛び込むのだ。
めんどくさくなりそうなことに直面したら、
とりあえず飛び込んで、
困っている人に助けを求められても、
とりあえず飛び込んで、
誰から何を言われても、
波風立たせないように同調していればいい。
「さすが~」
「しらなかった~」
「すごい!」
「センスいい〜」
「そうなんだ~」ってさ。
上辺だけで付き合っていたらきっと、
傷つくことなんてない。
心の扉を閉ざしていれば、
誰も「家」には入ってこれない。
そうやって過ごしていたらさ。
「あっ」という間に人生なんて終わってくれるでしょ。
みんながみんなのことを褒め讃えて、
みんながみんなの心に必要以上に干渉しない。
そういうのが「優しい世界」だ。
優しくて優しくて涙が出てくる。
隣にいる大切な人、
その目の中を見つめてみる。
「じっ」と見つめてみる。
その目は誰のことも見ていない。
そんなことに気がついてしまった。
知りたくなんかなかった真実、
狼狽えながら周りを見渡すと
あの人も、この人も、
一様に同じ目をしていた。
鏡を覗いてみる。
そこに映った瞳もまた、
みんなと同じだった。
ぼくは思った。
「みんな同じ、なんて優しい世界なんだろう」