「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

映画『竜とそばかすの姫』を見て

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(C)2021 スタジオ地図

 

「生きがいを見つけることで、現実に立ち向かう強さを手にすることができる」

そんなテーゼが見え隠れする。

 

絶望から這い上がるためには、何かしらのとっかかりが必要なのだ。

何であってもいい。それにしがみつきながら、それに夢中になることで、それを「生きがい」へと昇華させていく。

 

私にとって、その一つが「ブログを書くこと」だったのかもしれない。

だから、この作品の根底を流れる「テーマ性」に私は心から共感できるのだろう。

 

この手のミュージカル要素を全面に押し出したアニメが流行っている。

世間がコロナ禍にほだされて、Live感を求めているのだろうか。

 

ご時世柄ということもあるのだろう。

ニュースで戦闘シーンが当たり前のように流れるようになったから、作品にまでそれを求めることはしない。

派手な戦闘シーンは鳴りを潜めて、創作の世界での「音楽の持つ力」は、より一層、輝きを増しているようだ。

 

7月8日に金曜ロードショーで放送される予定だったが、延期となったとのこと。

私は勝手に「見逃した」と思っていたのだが、延期とは知らなかった。

改めて9月23日(金)に放送されるとのことだ。

 

例によって、私はいつもの情報源である、

Amazonプライムで視聴した。

 

私のこの作品に対する感想。

結論から申し上げると、細田守監督のオリジナル劇場アニメーション映画は全て観てきたが、私はこれが最高傑作だと思う。

 

時をかける少女』『サマーウォーズ』と順調に進んだ中で、その後の作品は独自の世界観を広げすぎて、私にはあまり理解ができないと感じていたが、

一つ前の作品である『未来のミライ』と、この『竜とそばかすの姫』は、作品の持つテーマ性にとても共感できる。

 

ここからは、

ネタバレは控えつつ感想を述べる。

 

美女と野獣』のパクリ

そんな批評が目立つけれど、これはパクリではなく典型的なオマージュだ。

 

元の作品が持つ要素を取り入れつつも、自分のものとして描いている。

そして、テーマは元の作品とは全く別のところにある。

これを「パクリ」だと評するのはあまりにも浅はかだろう。

 

元々『サマーウォーズ』は大好きな作品だ。

その世界観を踏襲して、さらに先へと進んだ世界。

単なるアバターではなく、五感全てを仮想空間に溶け込ませることで生きる第二の人生。

 

その点でのセルフオマージュ要素を取り入れつつも、見事に「次」へと昇華させている。

 

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序盤の「bell誕生」のシーン、

汚くて、惨めで、絶望の淵へと追いやられている少女の描写。

そこからの場面転換が見事だった。

 

そして、bellの表情の描き方がものすごくうまい。

アニメーションで、ここまで豊かな表情を描くことができるのかと驚嘆するほどだ。

 

風景描写は宮崎駿監督がトップだと思っているが、

表情の表現力は、この作品で細田守監督がジブリを超えたと言っても過言ではない。

現時点でのアニメーションの最高峰と言えるだろう。

 

ストーリーに含みは残すものの、これはこれでリアリティがあって良い。

この作品の持つ泥臭さを考えれば、何もかもが綺麗に解決するハッピーエンドである必要はない。

 

リアルのつながりとバーチャルでのつながりは別物。

それぞれ、そこに生じる恋愛感情もまた、同じ感情であって、似て非なるものなのだ。

 

おそらく、その辺りの感性は、物心ついた頃からオンラインの世界が当たり前の世代には根付いているものなのだろう。

だから、恋の行方に含みを持たせた描写はそれで良いと感じる。

 

1人の女子高生を通して、人の蘇生と葛藤を見事に描いた作品だ。

「1人の人間の中に広がる無限の可能性」

それを美しく力強く、豊かに描き切った。

 

世界は「希望」と「感動」を求めている。

目の前の現実が、あまりにも過酷で変わり映えのしないものだから、それを創作の世界に求めるのだ。

 

そして、その創作の世界から与えられた「心を動かされた経験」を大事に抱えて、それを生きる糧へと昇華して「生」を紡いでいる。

 

リアルとバーチャルの境目に佇み、

そこに折り合いをつけながら「イマ」を生きる若者たち。

 

現実には一度も会ったことのない恋人を作り、肉体のつながりよりも、心のつながりを求めているのかもしれない。

ある意味では、性欲から解き放たれた新人類。

低リスクで手軽に、バーチャルだけで心も体も満たすことができる時代へと突入したのだ。

 

反面、リアルな体験の持つ価値は上がっている。

そのパラドックスを抱えながら、多くの若者たちは複雑な感情を飼い慣らして、上手に生きていく。

 

そのスキルが不足していたり、運や縁に恵まれないとまた「生きづらい」となり、安易な発達障害という診断へとつながる。

 

多様化が進んでいるようで、実は同調圧力による画一性は力を増している。

 

何とも複雑な世の中だ。

 

「イマという時代」を的確に切り取って、それを作品の根幹に据えたからこそ、この作品は人の心を打つのだろう。

 

この作品が、現時点での細田守監督の集大成であり最高傑作。

私はそのように評価したい。

これから先も細田守作品が楽しみだ。

 

地上波放送の際には、録画してもう一度じっくりと見るだろう。

それくらい力のある素晴らしい作品だと感じた。