米軍のある研究結果で、人間の脳に電流を流した結果、
短期的ではあるが、普段とは比べ物にならないほどの集中力を引き出すことができたというものがあるらしい。
被験者となった彼女はこう話していた。
「電流を流されている間は、脳が経験したことのないような静寂に包まれていた。普段自分がいかに不安や怖れに支配されているかが分かった。その経験を経た私にとって、それは特別な体験だった。今一番したいことは、もう一度電流を流してほしいことだと言ったら、皆さんは頭がおかしいと思うだろう。しかし、私にとってはそれほど特別な経験だったのだ。」
物理的に思考回路をいじくることができるのであれば、私たちが必死に頭を回転させて、勝負所で緊張しないようにしたり、パフォーマンスを発揮できるように気持ちを作る努力をしていることは、無駄なことなのだろうか。
むしろそう考えると、人間の思考そのものに疑問が生じてくる。
私たちは何によって人格を形成され、何に従って行動しているのだろう。
薬による効果。
向精神薬により、気分の落ち込みを防いだり、気持ちを高揚させたりすることもできる。
私は頭痛薬を飲んだだけでもそれを感じることがある。
そう考えると、私たちの気持ちも脳内物質で説明がついてしまうのかも知れない。
全てのものが0と1で証明できてしまったならば、もはや神も仏もない。
人間の思考回路をディープラーニングによる結果で再現できてしまったならば、人間が支配するよりも効率の良い世界が再現できてしまうことと同義だ。
自分の心こそが、その人にとっての全て。
それが有機物から無機物に形を変えてしまったならば、人生は色褪せたものになりはしないだろうか。
そのような危険な世界がすぐそこまで迫っている。
「AIに仕事を奪われる」とか、そんな話のレベルではない。
「生きる意味を奪われる」
AIは、そうした危険性を孕んでいるのだ。
生物としてどんどん不自然な方向へと進化?していった成れの果てに、私たちは無機物と同化して、無機物に全てを委ねて、生きる意味を失ってしまうのではないか。
その先に待ち受けているものは、ただ抜け殻となって生体活動を続けるだけの人生。
仮想空間が現実世界よりも大きな価値を持つようになり、体を動かすこともせずに、脳に快楽を与えるだけが生きる目的となる。
『マトリックス』の世界は、そこまできているのかもしれない。
そして、人が自らそれを望んでいるのかもしれない。
もしかしたら、その方が幸せなのかもしれない。
「思考」もまた、環境とともに変わっていく。
100年後には何が正解かなんて、誰にもわからないのだ。