命が宿った事を知った時、
むず痒い気持ちがした。
心の奥の手の届かない場所。
なんだか、そこがむずむずした。
喜ぶ妻を横目に、冷静な私。
次第にむず痒さが体に広がっていき、
冷静ではいられなくなることは、
時間の問題だった。
次第に実感が湧いてくる。
大きくなる妻のお腹を触ると、
ポン、と蹴り返す振動が私の手に広がる。
確かに、ここにいるのだな。
手に残る感触を愛おしく思う。
振動一つを愛おしく思うだなんて、
こんな感情は初めてだった。
早く産まれたくて仕方がない。
そう急かすように、
お腹を蹴る回数は増えていく。
その振動は「希望そのものだった」
初めて顔を見た時、
自然と懐かしい感じがした。
初対面のはずなのに、
昔から知っていたような、
そんな懐かしさだった。
顔をくしゃくしゃにして泣く。
その姿は、この世に生まれてきた喜びを、
全身で表しているように見えた。
生まれ変わるような経験。
その時に五体を貫く喜びは、
筆舌に尽くし難い。
生まれた我が子の姿から、
「自分も生きている」のだと感じた。
「懐かしさ」の正体。
かつては私も同じように、
この世界に生まれ落ちたのだ。
目の前の我が子と同じ経験をしていたのだ。
「命」の重み。
それは色々な人の想いが詰まった分の重み。
親の大きな思いが詰まっている分の重み。
大小さまざまな重みが、
隙間なく敷き詰められている。
生まれながらにして満たされているのだ。
そこからは満たしているものを糧にして、
空いた隙間を「自分らしさ」で埋めていく。
そうやって紡がれていくのだ。
新たな物語がまた、紡がれていくのだ。