「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

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命が宿った事を知った時、

むず痒い気持ちがした。

 

心の奥の手の届かない場所。

なんだか、そこがむずむずした。

 

喜ぶ妻を横目に、冷静な私。

次第にむず痒さが体に広がっていき、

冷静ではいられなくなることは、

時間の問題だった。

 

次第に実感が湧いてくる。

大きくなる妻のお腹を触ると、

ポン、と蹴り返す振動が私の手に広がる。

 

確かに、ここにいるのだな。

手に残る感触を愛おしく思う。

振動一つを愛おしく思うだなんて、

こんな感情は初めてだった。

 

早く産まれたくて仕方がない。

そう急かすように、

お腹を蹴る回数は増えていく。

その振動は「希望そのものだった」

 

初めて顔を見た時、

自然と懐かしい感じがした。

 

初対面のはずなのに、

昔から知っていたような、

そんな懐かしさだった。

 

顔をくしゃくしゃにして泣く。

その姿は、この世に生まれてきた喜びを、

全身で表しているように見えた。

 

生まれ変わるような経験。

その時に五体を貫く喜びは、

筆舌に尽くし難い。

 

生まれた我が子の姿から、

「自分も生きている」のだと感じた。

 

「懐かしさ」の正体。

 

かつては私も同じように、

この世界に生まれ落ちたのだ。

目の前の我が子と同じ経験をしていたのだ。

 

「命」の重み。

 

それは色々な人の想いが詰まった分の重み。

親の大きな思いが詰まっている分の重み。

大小さまざまな重みが、

隙間なく敷き詰められている。

 

生まれながらにして満たされているのだ。

そこからは満たしているものを糧にして、

空いた隙間を「自分らしさ」で埋めていく。

 

そうやって紡がれていくのだ。

新たな物語がまた、紡がれていくのだ。