「経験した」
ただそれだけで誇らしく思う。
「また経験した」
それだけで「居場所」を与えられた気になるから、
どんどん「経験」を積み重ねていく。
「ほらっ、すごいでしょ!」って見せびらかして、
「ほらっ、こんなことをしてきたんだよ!」って共感を求めて、
「経験した」
ただそれだけ、
そのうちに、誰も褒めてくれなくなった。
ぼくのことなんて誰も見てくれなくなった。
だからぼくはみんなに「経験」を聞いた。
そしてぼくがしてほしかったみたいに、
みんなに「すごいね」って伝えた。
「経験」を聞いた。
そうすると「新たな世界」が見えた。
「経験」と「経験」をつなげてみた。
みんながまた「すごいね」って言ってくれた。
ぼくの姿を見ると駆け寄ってきて「すごいね」って褒めてくれた。
みんなが「経験」を話してくれるようになった。
たくさんの「経験」をぼくに話してくれるようになった。
だからぼくはその「経験」たちをつなげてみて、
「ああでもない」「こうでもない」って頭を悩ませて、
みんなの声をたくさん聞いて、
みんなの「経験」をたくさんもらって、
そうやって「やくそくごと」をつくりだした。
その「やくそくごと」はたくさんの人たちを集めてきて、
みんながその「やくそくごと」に従って、
生活をするようになった。
みんなが「すごいね」って言ってくれた。
ぼくも「すごいな」って思った。
ぼくはみんなに選ばれて「おうさま」になった。
みんながぼくの言うことを聞いて、
ぼくのつくった「やくそくごと」に従って、
ぼくはきっと「えらいんだ」
ぼくは「みんなとはちがうんだ」って、
誇らしい気持ちになった。
ぼくだけは「やくそくごと」を守らなくてもいいんだ。
だってぼくが作った「やくそくごと」なんだから、
平気で「やくそくごと」を破ったら、
みんながもっとぼくのことを「すごいね」って言ってくれるはず、
だから「やくそくごと」を破った。
ぼくに逆らうやつらはみんな黙らせた。
相変わらずみんな「すごいね」って言ってくれるけれど、
その表情はどこか怯えているようだ。
気にすることはない。
みんながぼくの言いなりなんだ。
ぼくが一番えらいんだ。
後ろから刺された。
一突きに後ろから刺された。
いつもぼくの言いなりで、
一番近くにいたやつにぼくは刺された。
みんなが歓声をあげている。
ぼくがいなくなることを喜んでいるようだ。
「経験した」
ぼくは特別なんかじゃなかったんだって、
ぼくはえらくなんかなかったんだって、
経験してわかったけれど、
わかった時にはもう手遅れだった。