「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

点と線

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「経験した」


ただそれだけで誇らしく思う。


「また経験した」


それだけで「居場所」を与えられた気になるから、

どんどん「経験」を積み重ねていく。


「ほらっ、すごいでしょ!」って見せびらかして、

「ほらっ、こんなことをしてきたんだよ!」って共感を求めて、


「経験した」

ただそれだけ、


そのうちに、誰も褒めてくれなくなった。

ぼくのことなんて誰も見てくれなくなった。


だからぼくはみんなに「経験」を聞いた。


そしてぼくがしてほしかったみたいに、

みんなに「すごいね」って伝えた。


「経験」を聞いた。


そうすると「新たな世界」が見えた。


「経験」と「経験」をつなげてみた。


みんながまた「すごいね」って言ってくれた。

ぼくの姿を見ると駆け寄ってきて「すごいね」って褒めてくれた。


みんなが「経験」を話してくれるようになった。

たくさんの「経験」をぼくに話してくれるようになった。


だからぼくはその「経験」たちをつなげてみて、

「ああでもない」「こうでもない」って頭を悩ませて、


みんなの声をたくさん聞いて、

みんなの「経験」をたくさんもらって、

そうやって「やくそくごと」をつくりだした。


その「やくそくごと」はたくさんの人たちを集めてきて、

みんながその「やくそくごと」に従って、

生活をするようになった。


みんなが「すごいね」って言ってくれた。

ぼくも「すごいな」って思った。


ぼくはみんなに選ばれて「おうさま」になった。


みんながぼくの言うことを聞いて、

ぼくのつくった「やくそくごと」に従って、


ぼくはきっと「えらいんだ」

ぼくは「みんなとはちがうんだ」って、

誇らしい気持ちになった。


ぼくだけは「やくそくごと」を守らなくてもいいんだ。

だってぼくが作った「やくそくごと」なんだから、


平気で「やくそくごと」を破ったら、

みんながもっとぼくのことを「すごいね」って言ってくれるはず、


だから「やくそくごと」を破った。

ぼくに逆らうやつらはみんな黙らせた。


相変わらずみんな「すごいね」って言ってくれるけれど、

その表情はどこか怯えているようだ。


気にすることはない。

みんながぼくの言いなりなんだ。

ぼくが一番えらいんだ。


後ろから刺された。

一突きに後ろから刺された。


いつもぼくの言いなりで、

一番近くにいたやつにぼくは刺された。


みんなが歓声をあげている。

ぼくがいなくなることを喜んでいるようだ。

 

「経験した」

 

ぼくは特別なんかじゃなかったんだって、

ぼくはえらくなんかなかったんだって、

経験してわかったけれど、

わかった時にはもう手遅れだった。