少し前から映画が話題になっている作品。
原作は『チェーンソーマン』で知られる藤本タツキ氏の読み切り漫画。
ジャンプ+に公開された時にはてなブックマークでも話題になっていたので私も読んだ。
詳細はネタバレになるので割愛するが、状況が好転しない中でも心が変われば、色褪せた世界が色を取り戻す。
そんな重松清的なストーリーが印象的だった。
映画の公開で熱が再燃したので、単行本を購入して改めて読んでみた。
一言で述べるならば「巧み」の一言である。
誰もが一度は想像したことのある人生の岐路。
あのとき、もしこの選択をしていなければどうなったのか、という「if」に思いを馳せた経験。
それを巧みに短いページに凝縮した作品だ。
京アニの放火事件をオマージュしたシーン。
ほんの少しだけボタンをかけ違うだけで、この事件は防ぐことができた。
そんな「if」の世界に救いを求めたいという作者の気持ちが、この作品の根幹にあるものなのかもしれない。
「絵だけで語る」
藤本タツキ氏は、その能力がずば抜けて高いと感じる。
人の感情表現をセリフなしに絵だけで語る画風は、「漫画」の域を超えて「絵画」の領域に踏み込んでいるのではないかとすら感じる。
だからこそ読者側の心が動かされる。
読者それぞれに多様な解釈を想起させるのだ。
それがそのまま作品の魅力につながる。
落ち着いたら映画の方も見てみたいと思った。
この短編読み切り作品が、どのような形で世界を広げてスクリーンに現れるのか。
とても興味深い。
青春の1ページ。
それだけで漫画を諦めた世界。
人生を賭けたライフワーク。
そこまで漫画を昇華させた世界。
誰もが一度は大きな分岐点を経験して、
選んだ先の人生を生きている。
そして、選ばなかった方の人生、
即ち「if」を想像しながら生きている。
その二つが交錯したとき、
人生に大きな変化が訪れる。
それが希望なのか、それとも絶望なのか。
この物語ではどちらに転んだのかは、
その目で確かめていただきたい。