「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

漫画『ルックバック』

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少し前から映画が話題になっている作品。

原作は『チェーンソーマン』で知られる藤本タツキ氏の読み切り漫画。

ジャンプ+に公開された時にはてなブックマークでも話題になっていたので私も読んだ。

 

詳細はネタバレになるので割愛するが、状況が好転しない中でも心が変われば、色褪せた世界が色を取り戻す。

そんな重松清的なストーリーが印象的だった。

 

映画の公開で熱が再燃したので、単行本を購入して改めて読んでみた。

一言で述べるならば「巧み」の一言である。

 

誰もが一度は想像したことのある人生の岐路。

あのとき、もしこの選択をしていなければどうなったのか、という「if」に思いを馳せた経験。

それを巧みに短いページに凝縮した作品だ。

 

京アニの放火事件をオマージュしたシーン。

ほんの少しだけボタンをかけ違うだけで、この事件は防ぐことができた。

そんな「if」の世界に救いを求めたいという作者の気持ちが、この作品の根幹にあるものなのかもしれない。

 

「絵だけで語る」

 

藤本タツキ氏は、その能力がずば抜けて高いと感じる。

人の感情表現をセリフなしに絵だけで語る画風は、「漫画」の域を超えて「絵画」の領域に踏み込んでいるのではないかとすら感じる。

 

だからこそ読者側の心が動かされる。

読者それぞれに多様な解釈を想起させるのだ。

それがそのまま作品の魅力につながる。

 

落ち着いたら映画の方も見てみたいと思った。

この短編読み切り作品が、どのような形で世界を広げてスクリーンに現れるのか。

とても興味深い。

 

青春の1ページ。

それだけで漫画を諦めた世界。

 

人生を賭けたライフワーク。

そこまで漫画を昇華させた世界。

 

誰もが一度は大きな分岐点を経験して、

選んだ先の人生を生きている。

そして、選ばなかった方の人生、

即ち「if」を想像しながら生きている。

 

その二つが交錯したとき、

人生に大きな変化が訪れる。

それが希望なのか、それとも絶望なのか。

この物語ではどちらに転んだのかは、

その目で確かめていただきたい。