生まれたばかりの娘は、お腹が空くと泣く。
時には「この世の終わりか」と思うくらいに激しく泣く。
当然、食べ物を与えてもらえないと死んでしまう。
だから、これは乳児が生きるために必要な機能なのだ。
この機能がなかったならば、親は乳児に食べ物を与える機会を逸してしまう。
そうなると栄養が不足して、発育に悪影響を及ぼすリスクがあるのだ。
社会に適応できない種は淘汰されてきた。
私たちホモ・サピエンスは、その生存競争を生き抜いてきたのだから、それは生きるために合理的な機能を備えているはずだ。
「食べたい」
当然のことながら、それは私たちが生きるために必要な本能なのだ。
よく長生きの秘訣を聞かれた高齢者がインタビューで答えている。
「よく食べることが長生きの秘訣」と。
私にも少なからず現れた感覚だが、歳をとると徐々に食欲が減退していく。
おそらくそれは消化機能が衰えるからなのだろう。
20代のうちは脂っこいものを好んで食べていた。
焼肉ではカルビが主食だったはずだが、30代も半ばを過ぎてくると、脂っこいものを体が受け付けにくくなり、ハラミが主食になってくる。
「食べたいから泣く」
生まれたばかりの娘の姿を見て、改めて食べるということが人間にとって重要であることを学ぶ。
飽食の時代を生きる私たち。
さらに娯楽は多様化している。
だから、食以外にも時間を割きたいと思うことは山ほどあるのだ。
私たちは、食に対する感謝を忘れてはいないだろうか。
食べられることは当たり前ではない。
元々私たちは、大きな声で泣きながら食を求めるくらいに、食に対して貪欲だったのだ。
成長と共に得るものもあれば、失うものもある。
生まれたばかりの娘は、私が失ってしまったものを思い起こさせてくれる。
それは、人間存在の本質に迫りたいと考える私に取って、大変ありがたいことなのだ。