「童貞のまま結婚した男」の記録

元「30代童貞こじらせ男」 30代後半まで童貞で、そのまま結婚した男の記録です。

新海誠監督『すずめの戸締り』を見た

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「震えた」

 

感想としては、その一言に尽きる。

映画を見終わった後、しばらく席から立つことができなかった。

 

素晴らしい作品だった。

まさに、新海誠監督が、中二病を卒業して大人の階段を登った作品と言えるだろう。

 

私は、短編『ほしのこえ』を含めて、新海誠監督の商業作品を全て視聴してきた。

毎度のように書いているが、その上で私の新海誠監督作品に対する評価は概ね変わらなかった。

 

「演出も構成も映像も文句なし。

ただストーリーをどうしても好きになれない」

 

このブログでも、たびたび新海誠作品に触れてきたが、中編傑作の『秒速5センチメートル』も『言の葉の庭』も、作品の美しさは申し分ないものの、私の評価は揺るがない。

 

そこから、『君の名は。』で一皮剥けて、大人の終わり方をしたかと思ったら、次作の『天気の子』では、壮大にやらかした。

 

世界が救われない終わり方。

中二病全開である。

結局、いくら売れても「新海誠新海誠なんだな」と、そう思ったことを覚えている。

 

誤解のないように書いておくが、私は新海誠監督のことを天才だと思っている。

色んな意味で、本当に才能溢れる人だ。

ここまで瑞々しく青春を描き続けることのできるおじさんは、彼の他にはいないだろう。

 

本題に入る前に、少し私が新海誠監督作品に対して書いてきた過去の記事を載せておく。

これを読んでいただければ、私のこれまでの新海誠作品評を理解いただけるだろう。

 

tureture30.hatenadiary.jp

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ここからは、表題の作品に触れる。

ネタバレは極力避けるが、若干本質に触れる点はご了承いただきたい。

 

本作『すずめの戸締り』は、1人の少女のワクワクからスタートする。

さすがは、新海誠監督だ。

この辺りに、青春の胸の高鳴りを感じさせる描写は見事としか言いようがない。

初めて街を出た少女の笑顔には、思わず「ニヤリ」としてしまった。

 

そこから始まる小冒険。

しかし、少女にとっては、一人で街を出ることだけでも、これまで経験したことのない大冒険なのだ。

ここは、『秒速5センチメートル』で、描かれたものと同じ質のもの。

 

「小さな世界」を「大きく見せる」

いわゆる「セカイ系」にシフトする演出と構成のうまさが光る。

小さな冒険だったものが、やがて世界を救うための冒険へと変わっていく。

 

そこで迫られる二択。

二者択一の不自由な二択だ。

「世界」をとるか。それとも「愛する人」を取るか。

これまでの新海誠作品は、後者を取る形で終わっていた。

しかし、本作はそうではない終わり方をする。

 

そこが、冒頭に書いた通り、新海誠監督が中二病を卒業して、大人の階段を登ったと感じた所以だ。

 

アニメーションなのだから、ニヒルに終わる必要はない。

綺麗な形で終わらせた方が、みんなが幸せになるはずなのに、どうしても、そうはならない。

君の名は。』は売れ線作品だからそうではなかったが、その他は、概ねそうやって終わる。

 

「なぜ、そっちに行ってしまうのか」

作品を見るたびに、何度もそう思ってきた。

最後に期待を裏切られる。なぜかといえば、それが新海誠作品だからだ。

 

話を戻そう。

小さな冒険の始まりの裏に、大きなテーマを隠してストーリーは進んでいく。

その過程で、人の暖かさや寂しさに触れる少女。

そして、当たり前のことは、当たり前ではなく、誰かの犠牲の上に成り立っているということを知る。

 

「ミミズ」と呼ばれる地震の根源となる存在と、それを抑え込むために奮闘する守り神の存在。

しかし、守り神にも人格があるならば、私たちの享受する平和は、その守り神の犠牲のもと成り立っているのかもしれない。

 

おそらくこの設定は、村上春樹氏の短編をオマージュしたものだ。

『神の子どもたちは皆踊る』の中に、ミミズを地震のメタファーとして登場させて、それを人知らずに抑え込む蛙の話があった。

蛙は誰にも気が付かれることなく、人々を地震から救うのだ。

 

「愛が全て」

 

そういう価値観にステータスを全振りしていたこれまでの作品から、親子の関係であったり、友人との関係であったり、一期一会の中にも絆が生まれるということであったり。

視野がものすごく広がっており、本当にこれが新海誠作品かと思うほどの出来だった。

 

「2人だけの世界」から、モラトリアムを抜けて、少し物事を客観的に見ることができるようになった社会人3年目くらいの価値観という印象を受ける。

 

「恋愛」とは、2人で愛し合うだけのものではなく、2人で周りの人を愛していくもの。

そんな価値観を根底に据えて、ヒロインは絶望に身を委ねることなく奮闘する。

これは、『天気の子』から考えると、目覚ましいほどの進歩だ。

 

「人の愚かさが災いを生み出す」というありがちな展開の逆をゆく設定は見事だ。

この作品では、人から見捨てられた土地が、災いの元となっている。

人の手で災害を引き起こすのではなく、人が関わらなくなったことで災害が起こる。

 

実際の3.11では大きな原因となった原子力発電所の「逆」をゆくことで、人災ではなく天災だと考え、前を向くための一助としているようにも感じる。

 

一瞬でグッと心を掴む映像と演出の力は健在だ。

「いい意味で」気持ち悪いくらい全力で青春を描くことから生まれる爽やかさも綺麗に残している。

 

新海誠作品の良さをそのままに、洗練された大人のストーリーが心地よく流れていく。

多くのエッセンスが詰め込まれた、これまでの新海誠監督の集大成と言える作品だ。

 

今回の『すずめの戸締り』が、間違いなく新海誠監督の集大成であり、これまでの最高傑作であると大きな声で言える。

それほど、素晴らしい作品だった。

機会があれば、是非とも皆さんにも見ていただきたい。

 

これから先、中二病を卒業した新海誠監督が、どのような作品を作るのか。

私の興味は既に次回作へと向いている。

 

こうして、私は新海誠監督の作品をこれからも追い続けるのだろう。

『天気の子』のように、次作はまた中二病全開の作品となるかもしれない。

例え、それが私にとって素晴らしい作品だとしても、そうではなかったとしても、私は新海誠監督の作品を追い続けるのだ。

 

もはや、それは私の人生の中の風物詩なのかもしれない。