夏が得意だったはずなのに、
ここ数年は夏になると不調に悩まされている。
原因は検査をしたところで不明だ。
私は夏が苦手になってしまったようだ。
激動の8月が終わった。
そして、多忙な9月が始まった。
私はいつになったら落ち着くのだろうか。
結婚して、妻と一緒に住み始めて、
そしてうまくいけば望む通りに子供が生まれる。
もしも、私の望む未来に進むことになれば、
もはや落ち着く気配はなくなる。
これから先は慌ただしい期間を10年単位で送ることになるのだろう。
モラトリアムは終わった。
いや、去年の転職を機に終わっていたのだろう。
それまでの5年間ほど私は、自らを見つめる作業に没頭していた。
精神的にも、肉体的にも、1度ずつ死にかけて、人生のどん底と言っても良い期間を経た。
あまりにも長い間停滞していた私の人生は、少し動き始めた途端、まるで「KURE-556」でも差したかのように円滑に動き出した。
そして加速を増していく。私にもよくわからないくらいの速度で、私は結婚へと進んでいく。
私にとっての「KURE-556」は、間違いなく転職だった。
女性たちのことなど考える余裕もないくらいに、私は自分のするべきことに追われることになった。
それが良かったのだろう。
前の職場のクソ女を意識するたびに、私の手を離してはくれなかった、私の心の奥底に佇む「女性たちへの憎しみ」
それを知らず知らずのうちに、捨て去ることができたのだ。
女性に対する卑屈な感情は自然と溶けていく。
その状態で彼女と出会えたことが、今の私へと繋がっているのだ。
「きっかけは転職だった」
それは紛れもない事実だ。
もしも私が前の職場に留まる選択をしていたならば、私は今も鬱屈した人生を過ごしていたのかもしれない。
まだまだモラトリアムを満喫していたのかもしれない。
時と共に人の心は濁っていく。
何も悪いことをしているわけではないはずなのに、
透明だった心には、徐々に不純物が溜まっていくのだ。
底に沈んだ不純物を取り除くことはできないのかもしれない。
せいぜいできることは、マドラーでかき混ぜて、多少は透明なように見せかけることだけ。
男も女も、そうやって自分のことをよく見せかけて、理想の相手を捕まえようと躍起になる。
水はどんどん濁っていく。
それでも、溜まった不純物を抱えながら、
人は望む未来に向けて、勝負していかなければならなくなるのだ。
私はギリギリ間に合ったのかな。
それとも、彼女がギリギリ間に合ったのだろうか。
もしかしたら、二人ともギリギリのところだったのかもしれない。
お互いの心に抱える水槽の中身を見せ合った私たちは、お互いの不純物を確認しながらも、それを誤魔化すことなく受け入れあった。
会って3回目には、お互いの腹の内は手に取るようにわかる。
私たちは、自然とそんな関係を築くことができたのだ。
これから先も、変わらずに心の内を曝け出し会うことができれば、おそらく私たちの心は遠く離れてしまうことはないのだろう。
そう信じて進む9月が始まった。
私たちは先に進むのだ。